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(1)増産すればいいの幻想
(2)流通実態把握なんか無駄?の続編です。
過去2回では、鈴木氏の主張がいかに経済の基本原則やデータ活用といった「現代の実務・ビジネスの常識」から逸脱しているかを指摘してきました。今回は、鈴木氏が自身の極論を正当化するために用いている「扇動的なレトリック」の問題点に切り込みます。
記事の中で、鈴木氏は現行の農業予算や食糧法改定について、次のような言葉で政府を非難しています。
”その背景には、積極財政と言いながら、農業予算については相変わらず削減対象としか見ていない財政当局の発想がある。アメリカから武器を買うなど別の予算の穴埋めのために、農業・農村にはこれ以上金を出さない。だから「価格を維持したいなら、生産を減らしなさい」という形で、生産者にしわ寄せを押しつけている。その状態を、今回さらに強化しようとしているわけです。(中略)そのコストは「もったいない」のではなく、いざという時に命を守る安全保障・国防のコストです。アメリカから在庫処分のような武器を大量に買うのに巨額を使うくらいなら、まずこうしたところにきちんとお金をかけるべきです。それこそが本当の国防です。”
(【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】危機認識の欠如した「食糧法」改定 |
JAcom 農業協同組合新聞(2026年4月24日)から引用)
日本がアメリカから購入している「防衛装備品」は自国防衛のための「武器」に加え「武器技術」を含むものです。
武器 (別表第1の1項) (出所:経済産業省)
これをあえて「アメリカからの在庫処分の武器」という一面的で俗悪な言葉で切り取ること自体、読者の反米・反戦感情を煽るための意図的なレトリックと言わざるを得ません。複雑で高度な国防の現実を、あえて「武器の爆買い」というチープな言葉に矮小化して印象操作を行っているのです。
更に「アメリカから武器を買うなど別の予算の穴埋めのために、農業・農村にはこれ以上金を出さない」の一文には全く根拠がありません。国家予算の編成は、それぞれの分野の中長期的な戦略に基づいて行われるものであり、単純なトレードオフで語れるものではありません。農業予算の厳格化は、担い手の減少やスマート農業への移行といった産業構造の転換に伴う「最適化」の過程であり、防衛費の増額とは全く別次元の議論です。
鈴木氏はおそらく農業分野のエキスパートなのでしょうから、防衛・安全保障に明るくないのでしょう。かく言う私も詳しく語れるレベルではありませんが、日々の報道を追うだけでも日本がアメリカから防衛装備品を購入する目的は少なくとも以下の3点が挙げられます。
1.周辺諸国の現実的な武力行使リスクに対する「抑止力の強化」
2.日本最大の同盟国である米国との「安全保障関係の強化」
3.保護主義化する米国(関税の際限ない引き上げ等)に対する「外交・通商上の防衛策」
鈴木氏は「危機認識の欠如」を指摘していますが、これらは上記の危機認識に基づいた行動以外の何物でもありません。
また鈴木氏は本文で「ホルムズ海峡の封鎖」というシーレーン(海上交通路)の危機を執拗に煽っていますが、そもそもそのシーレーンの安全を最終的に担保しているのは日米同盟の抑止力と防衛装備です。防衛力強化を「在庫処分」と切り捨てながら、同時に「ホルムズ海峡が封鎖されたらどうする」と騒ぎ立てるのは、安全保障の全体像を全く理解していない自己矛盾の極みです。
鈴木氏は、「ホルムズ海峡封鎖で飢える」「アメリカの武器を買うために農家が見捨てられている」といった、人々の恐怖や怒りに直接訴えかける言葉ばかりを並べ立てます。 極端な仮定で危機感を煽り、仮想敵(財務省やアメリカ)を作り出して読者を扇動し、自らの「採算度外視の無制限な備蓄」という非現実的な政策をゴリ押ししようとする。こうした感情的なポピュリズムによる政策誘導は、専門家の態度として不誠実であるだけでなく、日々の現場でギリギリの努力を重ねている生産者や流通関係者を無用な感情的対立の構図に引きずり込む「卑怯」な振る舞いです。
国防や外交という国家の根幹を、農業保護の「ダシ」に使うのは、もうやめるべきです。

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