『さいたま市、食肉市場廃止へ』というニュースは単なるいち自治体の問題ではなく、その公表内容からは、全国の食肉流通インフラを揺るがす『危険な論理』が見えてくるかと思います。その点を補足します。
食肉市場は消費地にあるもの
さいたま市のリリース「1-4 食肉中央卸売市場・と畜場事業(現施設)の検討」の一文には、「また、市内の状況としては、生産者が減少し、買参人も、市外が大半を占めており、市における必要性は低下している状況が見られました。」と記載されています。
食肉の中央卸売市場はさいたま市を含めて全国に10場あり、東京都(品川)・福岡市・仙台市・大阪市…と何れも各地の中核都市に存在します。これら食肉中央卸売市場を開設する自治体は基本的に食肉生産地ではありません。
農林水産省による令和5年度市町村別農業産出額(推計)による東京都及び食肉中央卸売市場を開設する市区町村の肉用牛・豚の生産額と、それらを各卸売市場の取扱金額で除算したものが下記となります。

(出所:農林水産省「令和5年度市町村別農業産出額(推計)」、令和6年度版卸売市場データ集より株式会社ジャスタコンサルティング作成)*左軸の単位は億円。生産額と各卸売市場の取扱金額は該当年が異なるので参考値
神戸牛の印象が強い神戸市すら市内生産額の10数%の取扱に留まります。つまり、食肉市場というものは基本的に「生産地と卸売市場は分離されているもの」です。
これについて、「何故他所で生産されたものの面倒を見なければいけないのか」と思うかもしれませんが、元来食肉として加工されたものを素早く消費するためには、消費地へ卸売市場を設置しなければいけなかった当時の流通事情があるかと考えます。
また、生産地を抱える自治体の言い分としては「こちらは畜産者に対する支援を行っているのだから、消費地は食べるだけでなく流通の支援をしてくれ」という役割分担の期待もあるのではないでしょうか。
上記のさいたま市の言い分であれば、どの自治体についても「食肉市場を運営する意義は無い」と解釈出来てしまいます。ただ、食肉市場の特性や自治体ごと役割を考えれば食肉インフラを支える役割や意義はあるのではないでしょうか。
というか、生産者がほぼ市内にいない点など「解り切っていたこと」であったでしょうから、この辺りの記載内容からは「財政面から再整備事業継続が困難と判断した段階」で、それに向けた材料を載せているようにしか思えませんでした。
実際は「懐も苦しいし、割に合わないから辞める」なのでしょうが、それだけでは自治体の立場として無責任になってしまうので、これらの理由を並べる必要があったと推察します。
但し、「食肉市場を運営する意義は無い」とリリースしたことは全国の食肉中央市場を開設する自治体に少なからず影響するでしょう。そういう意味でも残念なリリースでした。
とはいえ、さいたま市の事情も判る
であれば、1,000億円以上の事業をさいたま市民以外の利便性まで含めてさいたま市が行うというのは、やはり割に合わないという事情は十分理解できます。
公設卸売市場というのは、開設自治体の住民に対するサービスだけでなく、周辺地域まで含めた利便性を確保しなければいけない点が、自治体事業の中において特異な点となります。
本事例は、卸売市場の在り方を一自治体だけで検討し、判断する弊害が随所に出てしまったのではないでしょうか。
この辺り、各地の地方農政局がもっとサポートすべきだと思います。
農林水産省は市場間連携の強化を求めていますが、結局は各卸売市場間や入場業者の関係性にほぼ全てを任せている状態となっています。この辺りを含めて地方農政局単位で地方の食料インフラをどう維持し、どう支え、連携させていくかの検討が必要だと感じます。
本件については、もう少し書いてみようかと思います。

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